2015年6月16日火曜日

『ツイン・ピークス』マニアックス<その1>〜銀河系で一番マニアックなツイン・ピークス裏読み講座〜

リンチ監督がツイン・ピークスの続編を制作されているということで…



90年代に一大ブームを巻き起こした
テレビドラマ『ツイン・ピークス』を
掘り下げるこの企画。

『ツイン・ピークス』3話・第4話を通じて、グッと存在感を増すのが
「ジャコビー先生」ことローレンス・ジャコビーである。

見逃してはならない大切なシーンが二つある。
一つ目は、オードリーが
秘密の小窓から見たジャコビー先生と
オードリーの兄のシーン。

二つ目は、ジャコビーの墓参。

そして、それら二つのシーンを繋ぐのが「ローラの葬儀」である。

『ツイン・ピークス』はミクロな町を描いているのと同時に
マクロなアメリカ社会を描いている作品だが……
この法則はジャコビーとその周囲の人間関係にも当てはまる。

まずは、秘密の小窓のシーンについて。
オードリーの兄ジョニーが常に装着している
「ネイティブ・アメリカンの派手な羽飾りの被り物」をジャコビーが説得して、
脱がせるのだが、この場面をオードリーが小窓からジッと見つめている。

ここでは、ジャコビーはフロイトの象徴である。
1909年、精神分析の祖フロイトはアメリカに招かれて連続講演を行い、
1930年代になるとフロイト主義者たちは驚くべき発展を遂げ、
その影響力は文学界にまで及んだ。
『ツイン・ピークス』は“アメリカ文学史を辿る旅”でもあるので、
その旅の途中でフロイトの姿が描かれることは自然なことだろう。

さて、この“小窓のワンシーン”で、
白人がネイティブ・アメリカンの文化をどのように理解していたか、
が表現されている。

誇りの象徴である羽飾りを脱がせるということで、
彼らが白人社会の価値観に懐柔されたことを端的に示す。
フロイトの精神分析(ジャコビーがその象徴)が正常と異常を峻別したがゆえに、
ネイティブ・アメリカンの思想(ジョニーの被り物がその象徴)は
白人の価値観から「迷信を信じる者」というレッテルを貼られてしまったのだ。

具体的にいえば、フロイトの有名な論文「トーテムとタブー」に登場する
“北アメリカの部族が殺した敵のために服喪する習慣を精神分析した事例”のこと。
ここにはこうある。

「これらの部族は、殺された者の霊魂にたいする迷信的恐怖に支配されている」

彼らの文化と儀礼と叡智に満ちた精神世界、
それらを精神分析の権威で白人社会の次元まで
(それらは白人には迷信にしか見えない)に引きずり下ろしてしまったわけだ。

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ちなみに……

4話で展開される劇中劇「愛の招待状」。
このTVショウとしてのメロドラマに「タブー」が登場する。
「妹の夫を誘惑する女性」が登場するテレビドラマ
(ルーシーが仕事中にのめり込んでいる)が唐突に画面に映るのだ。
しかし妹の夫とは……不貞にはなるが、
血縁ではないから“タブー”(禁忌)と言えるのか?
と首を傾げてしまいがちだが、文明前史の“タブー”には
「血縁以外の異性の親族」との接触もしばしば含まれることがある。
(たとえば精神分析の祖フロイトの論文「トーテムとタブー」には
“フィージー諸島では血縁の姉妹だけではなく集団の姉妹にさえ
タブーが適応され接触が忌避される事例”や、
“アフリカの部族においては妻の兄弟の妻に対して厳しいタブーがある事例”などが
取り上げられている)

ゆえに、この映像「愛の招待状」は
文明前史のタブーの概念のガイダンスとなっていると考えても良いだろう。

また第4話ではフロイトの「トーテムとタブー」の存在を
浮き上がらせようという意図か、ヒントがやたら乱発されている。

第4話でクーパーと1対1で対峙したジャコビーが話す
「社会そのものが性に悩んでいる」
……これはワンフレーズでフロイトの思想を提示したものだ。

そもそも“タブー”(ポリネシア語で「明確に印をつけるという意味」)は、
J・クックによって18世紀末に西洋社会に持ち込まれた概念だが、
その際ポリネシアの文化から切り離され、
西洋的価値観による解釈で歪められてしまった。

西洋社会においてタブーという概念は全般的に、
一神教成立以前の原始社会のものとして低い位置に置かれることとなったが、
フロイトが“タブー”に関して記述した論文「トーテムとタブー」をよく読んでみれば、
それを低い位置に置いているばかりでもないことがわかる。

フロイトは内面的に豊かな原始民族のタブー(禁忌)と
“神経症者の行動原理”の類似性に惑わされてはならないと諭している。

原始民族は行動を抑制されておらず、彼らは神経症的ではない。
彼らの行動そのものが思考のかわりになっており、
彼らは禁忌を守ることに対し何も抑圧を感じてはいないからだ。

しかし、現代人は思考し、抑圧されているからこそ、
自己を分裂させてしまいがち。フロイトはインセスト(近親相姦禁忌)を
“本能的欲求”とし、タブーはそれを抑圧する“無意識のメカニズム”と分析している。

フロイトがいうところのタブー、そしてインセスト(近親相姦禁忌)、
これがおそらく『ツイン・ピークス』のキーワードでもあるだろう。

これらの予備知識のもと、『ツイン・ピークス』を再解釈してみると
……意識(抑圧)と無意識の狭間で分裂する自己を持つ者が最重要人物だ。

分裂する自己から漏れ出るエネルギーを霊的存在(自然霊や悪霊)に
利用されてしまったという実例はコリン・ウィルソンの
ルポルタージュ『ポルター・ガイスト』にも紹介されている。

現代人の自己分裂の狭間につけこむ
ネガティブな霊的存在が
『ツイン・ピークス』に登場する
“邪悪な存在=BOB”なのだろうか。

だとすれば、田舎町ツイン・ピークスで
起こった事件の要となる人物とは
“社会的な地位”を維持するための
抑圧と“本能”のギャップが
大きな人物であることが見えてくる。

そのような人物(意識と無意識の振れ幅が大きい人物、
平たく言えば外面と本性がズレているような人物)が
邪悪な存在BOBにとり憑かれている可能性が高い。
そのような人物像を持つ登場人物とは一体誰なのだろう? 
推理してみよう。

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ジョニーが被っていたネイティブ・アメリカンの羽飾りは
3話以前にも登場していた。

第2話の冒頭の“食卓のシーン”を思い出してみよう。
その時から既にジョニーはこの羽飾りを着用しており、
さらにはその席にフランス帰りのジェリー・ホーンが
サンドイッチを土産に帰ってくる。
つまりフレンチインディアン戦争の史実を暗喩していた。


ネイティブ・アメリカンの被り物を脱いだジョニー
(つまり懐柔されたネイティブ・アメリカン)が
ローラの葬儀に出席し、突然アーメンと叫び出す場面にも着目してみよう。
これは小説『モヒカン族の最後』(1826年)の
ネイティブ・アメリカンの青年アンカスと
黒人と白人の混血女性コーラの葬送の章からの引用と考えるのが良いだろう。
小説『モヒカン族の最後』では彼らの葬送は途中から
キリスト教の儀礼に座を譲ることとなる。



ちなみに、『モヒカン族の最後』の
作者の名前はクーパーで
主人公の名前はホークアイ
たぶん『ツイン・ピークス』の登場人物の
名前(クーパーとホーク)の元ネタ



主人公のホークアイはネイティブ・アメリカンの娘たちが行う
葬送儀礼を制止させたのち、キリスト教の賛美歌教師である
デイヴィッドのなすがままにさせる。

驚いたことに、ネイティブ・アメリカンの娘たちはそれを受け入れるのである。
(事実、ネイティブ・アメリカンの葬送儀礼や信仰は
キリスト教的なものと混じり合い、形を変えている)

『モヒカン族の最後』の「コーラの葬送」と
『ツイン・ピークス』の「ローラの葬送」を
重ね合わせて観ることができるこのシーンは
“宗教的な問題提起”というよりは
“コスモポリタニズム(世界市民主義)に至るまでの道程”として解釈するほうが良い。
なぜなら、今後、シリーズを通じてそこに至るまでの道筋が見えてくるのだから。

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