2015年8月15日土曜日

超裏読み・外伝小説『クーパーは語る』+ツイン・ピークス第11話・第12話解説

11話と第12話はメインストーリーと小さなサブストーリーが並行して進む。

しかし、それらに気を取られていると、クーバーが口にする、
ツイン・ピークの謎を解き明かすヒント……
“ヘブン”(天国)を聞き逃がしてしまいがちだ。


【ダイアンは実在した!

12話の冒頭には、さりげないけれど重要なシーンがある。
クーパーが耳栓をしているのだ。

第5話で、クーパーがアイスランドからの団体客の騒音対策のために
テープレコーダーの“ダイアン”に耳栓の手配を頼んでいたことを覚えているだろうか。
クーパーはテープレコーダーに録音したテープをダイアンに郵送し、
そのテープを聞いたダイアンに耳栓を送ってもらったのだ。

外伝小説『クーパーは語る』には、こんな録音記録がある。



「ダイアン、こんなことを頼むのは初めてだし、原則として、
ぼくは決して公私混同をしないように努めているが、
もしきみがぼくにディナーをつきあってくれるとしたら、非常に光栄に思う」

そして、彼らは共にワンタン・スープ、春巻、ペキン・ダックを食べたらしい。
FBI職員ダイアンが語る証言も載っている)

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【なにかと気になる文房具】

11話の冒頭で突然、柄にもなく電子手帳を使い始めるクーパー。
12話で付箋を体いっぱいに貼ってルーシーの代理の仕事をしているアンディも
不自然である。

両者はいかにも違和感を感じさせるが、何か意味があるのか。

調べてみると、電子手帳も付箋(ポストイット)も発売されたのは1980年。

過去の回を思い出してみても、第9話でキラー・ボブの似顔絵を
ダブルRダイナーで貼っていたとき、
アンディがセロファンテープまみれになっていたが、
セロファンテープの開発は1930年である。

つまりは、『ツイン・ピークス』各話が“裏テーマ”として描いている
アメリカ史(もしくはアメリカ文学史)の各話のテーマの年代と、
その回に小道具として少し不自然に登場する文房具の開発年が
おおよそ合致しているのは偶然ではないだろう。

ゆえに第11話・第12話は1980年代のアメリカ史が
裏テーマとなっていると見て良いだろう。
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【ヴァルハラはどこにある?】

11話で、判事はリーランドにこう言う。

「このはかない人生が終わりを告げた時には、
みんなで再会し乾杯しようではないか ヴァルハラで」

ヴァルハラとは、北欧神話に出てくる“戦死者のための館”であり、
最高神オーディンの豪華な宮殿のこと。
(なお、ウェイター=巨人とミルクの関係も北欧神話で解ける。
 巨人と牛が北欧神話のそもそもの始まりだから
 わかりやすいサイト:http://www.moonover.jp/2goukan/north-s/mine9.htm

また、同話でクーパーも、ツイン・ピークスを
「天国です」「天国は興味深いところです」と表現していた。

つまり、第11話は“あの世の話”がたびたび出てくるのである。
“あの世”はしばしば詩人や芸術家のイメージの源泉となる。

たとえば『ツイン・ピークス』全般に大いなる影響を与えている
現代詩『荒地』には、
http://riekonaito.blogspot.jp/2015/08/blog-post_88.html
かの有名なダンテの叙事詩『神曲』から
“罪を悔い改める時間を与えられず、
煉獄の浄化の火の中にいる女性”に関する
記述が引用されている。

すなわち、それは『ツイン・ピークス』においてはローラであろう。

ダンテ叙事詩『神曲』からエリオットの現代詩『荒地』へ、
そして『荒地』から『ツイン・ピークス』へと
“煉獄の火の中にいる女性のイメージ”のバトンが手渡されているというわけ。

この「天国」「煉獄」という言葉をどう理解するか?
によって、以後のストーリーを楽しめるか否かが決まると
言っても過言ではないだろう。

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天国は、興味深いところです】
11話、判事と挨拶を交わすクーパーが妙なことを言う。

判事にツイン・ピークスの町の印象を問われたクーパーが「天国です」
「天国は興味ふかいところです」と答えるのだ。

ここで、大胆な仮説を立ててみよう。
(注:あくまでも私見。個人的な仮説ですよ)

クーパーが言うように、『ツイン・ピークス』は本当に
“天国”(もしくは煉獄のような場所)を
描いているのではないだろうか?

参考になりそうな記述がある。

外伝小説『クーパーは語る』の
1979年1月25日の録音記録だ。



クーパーは当時上司だったウィンダム・アールの勧めで休暇中に小さな島を訪れた。
そしてその島に住む老人から「死相」が出ていると告げられる。

その後、こんな録音が残されている。

「ダイアン……闇だ……真っ暗な……この島から出なければ……
 いや……なんだ、これは……サルの手だ……島を出るんだ」。

(小説の中のさりげない言葉だけれども、実は「サルの手」こそ
 最重要キーワードだと私は思います)

セリフの中に出てくる“サルの手”とは、
イギリスの有名な怪奇短編小説「猿の手」(WW・ジェイコブズ作)の中に
出てくる“3つの願いが叶うサルの手”のこと。

小説「猿の手」では、母親が、死んだ息子の復活をサルの手のミイラに願う。

おそらくクーパーは、闇(おそらく死を意味する)の中から抜け出すために
その“サルの手”を一度使っているのだろう。

さらに、5月25日、何者かに刺されたクーパーは、
心肺停止の状態に陥っている。

臨死体験をしたクーパーはテープレコーダーにこう語った。
「あのまま行かせてほしかった」。

7月20日の録音記録にはこうある。

「すべてぼくの失敗だ。ぼくは失敗した」。

その次に行われた録音の記録は惨憺たるものである。
クーパーは常軌を逸し、「自分が誰だかわからない」と語り、
「癒して……」という言葉を16回も繰り返す。
『クーパーは語る』第5部は、この時点で終わる。

しかし一転、この小説の第6部は、1980年からの録音記録として始まる。

瀕死の重傷であったはずのクーパーは、活力みなぎる様子で旅に出るのだ。

第5話から第6話へのつながりは唐突すぎる。
短期間で心身ともに回復し、旅立つクーパー。 

おそらくクーパーは “別の世界”へと旅に出たのだ。
(クーパーはその旅路の途中で“ハックルベリの世界”を願っている。
 つまりは、サルの手でやり直しする際に理想の世界を願ったのだ…)

ハックルベリの世界とツイン・ピークスの
ブックハウスボーイズの繋がりについては
隔週刊ツイン・ピークス静岡版4号にて!
http://www1.m1.mediacat.ne.jp/riekonaito/TWIN.html

これは、あくまでも仮説だが、ツイン・ピークスとは
“この世”で致命的な失敗したクーパーが、
もう一度“別の世界”
“やり直し”をするための場なのではないか。

この仮説を補強できる情報も
『クーパーは語る』に載っている。

『クーパーは語る』の終盤、
ウィンダム・アールから
こんな詩がクーパーに送られているのである。

ある暗い日の真夜中
死んだ二人の捜査官が起きあがって闘った
背中合わせに向かい合い
刀を抜いて互いに振りおろした
耳の聞こえない警官がその音を聞いた
だがクーパーは死んだ、ウィンダムの妻と同じように
わたしは未来を見た、そしてその未来が今なのだ


公式副読本『ツイン・ピークスの歩き方』では
ノーマのつくるパイは“天国の味”とある。
本当の意味で“天国の味”なのかもしれない。

テレビドラマ版と劇場版の世界が“円環的であるようでいて、
どこかが違うパラレルの世界”であることも、
“サルの手を使えば、もう一度やり直しができる”
“サルの手は3回使用できる”を前提とすれば理解できるだろう。

パラレルなエンディングについて
http://riekonaito.blogspot.jp/2013/12/blog-post.html



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以下はパラレルな世界について…補足

ハリー・S・トルーマンの名前の由来も公式副読本に掲載されている。
話は、さかのぼること1948年。
大統領になる以前のハリー・S・トルーマンは、
選挙遊説中にツイン・ピークスに立ち寄り、
ハリーの父と握手を交わしている。

それがよほど印象的な出来事だったのか、
ハリーの父は、生まれた自分の息子に、
ハリー・S・トルーマンと同じ名前を命名したというわけだ。

しかし、“実在”の大統領ハリー・S・トルーマン
(米国の政治家・第33代大統領・在任19451953)は
1945年に既に大統領になっている。

1948年に選挙遊説中だったというツイン・ピークスの歴史は
現実の世界とは若干ズレており、これは、
ある種のパラレルワールドとして解釈すれば良いだろう。
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【ロバートソンという男が住んだことはない】

11話、保安官事務所におけるクーパーとハリーの何気ない会話の中に、
重要な情報が含まれている。第10話でリーランドがクーパー、ホーク、ハリーに
語った“白い家(祖父の別荘の左隣)に住むロバートソン
(キラーボブの似顔絵と同一人物)”に関する事実確認である。

ハリーは語る。

「ホークから連絡があった ロバートソンという男が住んだことはない」

しかし、リーランドは優秀な弁護士である。
クーパーや保安官たちが少し調査すればロバートソンの非実在など
すぐにバレてしまうことはわかっているはず。

となれば、ボブはリーランドの幻視か。
しかしローラやセーラ、マデリーンもボブを見ていた。
夢の中で出会っているクーパーもいる。
しかし、ロバートソンことキラーボブの本質に関する秘密は
本編では多く語られることはない。


そこで、『ツイン・ピークス』公式トレーディングカードに
記載されている情報に頼ることになる。
カードの「ボブ」の項目にはこうある。

「通称:リーランド・パーマー 生年月日:世界が始まった日 
 業績:俺は人間がこの世に誕生して以来、ずっと生き続けている。 
 長所:人間の魂に乗り移り、その体を利用して悪を実践することができる。
 弱点:俺のものにならない人間もいる」

なんと、カードには、ボブの通称が「リーランド・パーマー」であると
明記されているのである。

ちなみに、公式トレーディングカードの
「リーランド・パーマー」の項目を
見てみると、これまた意外な記述を見つける。
そこにはこう書かれている。
「リーランド・パーマー 弱点:ボブ」。

キラーボブ(ロバートソン)とリーランドの関係性は、
ドッペルゲンガーを主題としたエドガー・アラン・ポーの怪奇小説
『ウィリアム・ウィルソン』を想起させる。

この小説の主人公であるウィリアム・ウィルソンは
若い頃からドッペルゲンガーに悩まされ続け、
ついにはそのドッペルゲンガーを打ち倒すが、その際、
目の前に巨大な“鏡”を幻視することになる。
ドッペルゲンガーの死と鏡の幻視が重なる場面が小説のクライマックスだ。

少し先の話になるが『ツイン・ピークス』第14話においては、
鏡に映るリーランドがボブの姿になっているシーンがある。
リーランドは幼い日、白い家に住む
キラーボブ(ロバートソン)と出会って以来、
魂の一部をキラーボブに乗っ取られ、
以来、それはドッペルゲンガーのように彼の影となったのか。

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以下はこれまでのツイン・ピークス関連の記事まとめ

アクセス数ナンバー1・宇宙一わかりやすい解説
http://riekonaito.blogspot.jp/2012/08/blog-post_16.html

ネタバレを含むラストシーン解説
http://riekonaito.blogspot.jp/2013/12/blog-post.html

銀河系一マニアックな裏読み〜TPの中のネイティブ・アメリカンについて〜
http://riekonaito.blogspot.jp/2015/06/blog-post_16.html

裏読み講座〜丸太おばさんなど〜
http://riekonaito.blogspot.jp/2015/06/ben.html

書籍で読み解くシリーズその1<シークレット・ドクトリン>
http://riekonaito.blogspot.jp/2015/08/blog-post_10.html

書籍で読み解くシリーズその2<荒地>
(以下のリンクは隔週刊ツイン・ピークスの宣伝を含みます)
http://riekonaito.blogspot.jp/2015/08/blog-post_88.html

小ネタ講座
http://riekonaito.blogspot.jp/2015/08/blog-post_15.html

7話・8話解説
http://riekonaito.blogspot.jp/2015/08/blog-post_19.html

13話・14話解説
http://riekonaito.blogspot.jp/2015/08/1314.html
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